マダムNの神秘主義的エッセー

神秘主義的なエッセーをセレクトしました。

60 憑依と、成仏した義祖父の後日談(お酒好きな人々への野暮な警告)

インデックス

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ウィリアム・ジェームズが薬物や病気による幻覚経験も神秘主義的経験も一緒くたにしてしまったため、神秘主義者のいうこと に権威がなくなり、信頼されなくなってしまったが、神秘主義的観点から見ると、麻薬のような薬物や不適切な行法はオーラの保護の網を破り、低級霊の侵入 (憑依)を容易にするという点で極めて危険である。
下手をすれば凶悪な低級霊の操り人形となってしまうだけではなく、死後にまで深刻な影響を及ぼす。
改めて、竜王文庫から出ているへレナ・レーリッヒによるアグニ・ヨガのコピー本を読んでみたところ、このところ薄々そうではないかと考えていたことが、ズバリ書かれている箇所に出合った。

現代は、憑依された人の数は空前のものである。*1

そうではないかと思っていた。

エッセー 47 「アルコールの害について(成仏した義祖父の話)」は義祖父が成仏するまでの簡単なレポートで、エッセーを公開したとき、わたしの疑問はこの物質界に浮かばれない霊(低級霊)とその霊に憑依された人々は数量的にどの程度存在しているのだろう、といった点であった。
酒好きだったという義祖父がアルコール中毒だったという話は聞かない。孫を可愛がる、ちょっと遊び好きな普通の老人として通っていたようだ。それなのに、孫に憑依する低級霊となってしまったのだ。
麻薬に代表されるような依存性のある様々な薬物、アルコール、煙草を好む人間がどんなに多いかを思えば、成仏できずに――正しくは成仏せずに、というべきだろう――地上に留まっている低級霊がどれほど多いかの推測はできるというものだ。
ヘレナ・レーリッヒが「空前のものである」というのだから間違いない。しかも、レーリッヒのいう「現代」は今からいえば昔である。
岩間浩『ユネスコ創設の源流を訪ねて―新教育連盟と神智学協会』(学苑社、2008)によると、1935年4月15日にルーズベルト大統領の官邸において、科学及び芸術機関、並びに歴史モニュメントを保護する条約が、汎アメリカ諸国デーを彩る最も重大な行事となった。この条約は非公式にはレーリヒ条約と呼ばれる。
条約を提唱したニコライ・レーリヒ*2の夫人がヘレナで、彼女のいう「現代」とはその頃のことである。

レーリヒ条約のその後をニコラス・レーリッヒ(日本アグニ ヨガ協会訳)『アジアの心』(竜王文庫、1981)から引用すれば、「1955年、ハーグ会議の最終決定に調印した39の加盟国は、レーリッヒ条約に基づいた武装戦争期間中の文化財産保護条約を批准した」*3ウィキペディアによると、2007年9月時点で条約の締約国は117か国であるが、主要国ではアメリカ合衆国やイギリスが未批准。*4
モリヤ大師はブラヴァツキーを指導したことで知られている。レーリッヒ夫妻もモリヤ大師の指導下で、調和し、協力し合って多方面の活動を行った。
わたしは神秘主義的なことに関してわからないことが生じると、ブラヴァツキーかヘレナ・レーリッヒの本を開く。すると、必ず、参考になる文章に出合うことができるのだ。

享楽が何より貴ばれるわたしたちの現代では憑依された人の数はさらに増え、増加の一途をたどっていると考えるべきかもしれない。
ヘレナ・レーリッヒの言葉から推測できることは他にもある。憑依された人が死後に憑依する側になる可能性である。被害者が加害者になる懸念は大いにある。
おそらく、義祖父のような例は採り上げるのも陳腐なくらい、ありふれたことに違いない。
だから、霊媒は四六時中、憑依霊を目撃するのだろう。もっとも、霊媒が見る「憑依霊」の中には、肉体の死後しばらくは生き残るという神智学用語でカーマ・ルーパと呼ばれる殻(お化け)にすぎないことも多いのだろうが、そのあたりのことは専門的すぎてわたしにはよくわからない。
わたしが義祖父を幽霊として見たことは一度もなかった。伝わってきた想念によってその想念の持主が義祖父ではないかと考え、長年の観察及びその想念――の持主――との見えない格闘を経て確信へと変わっていったのだった。
憑依霊として存在していたときの義祖父の想念について、もう少し詳しく述べておきたい。
ある思いが音声なき音声を伴う明快な言葉となって――としか表現しようがない――瞬時に伝わってくることがわたしにはある。しかし、義祖父の思いをそのような言葉として受け取ったことはなかった。義祖父の思いが言語化されたことはただの一度もなかったのだ。
義祖父の想念は濃密で不浄な湿った昏い靄のようなものとして感じられ、その独特の墓場のようなムードがわたしにはたまらなかった。
そのムードの持主を幽霊のような客観的な姿として見たことはなかったが、わたしの内的な鏡に、夫に寄り添う老人の姿がぼんやり映った気のすることはあった。
昏い水甕に映る曖昧な像のようなもので、錯覚かと思われる程度の瞬間的なものなのだが、どこか鮮明なところもあるのだ。その像はその時々の表情を持っていた。大抵は不機嫌そうで、稀には穏やかに意外そうにこちらを窺うような表情を浮かべていることもあった。
愛する孫を自らの独房としていた、死んだ老人との長い付き合いだった。
義祖父の成仏を確信してからは、あの墓場のような陰鬱そのもののムードを感じたことは一度もない。
わたしの神経を刺激して家庭不和のもととなっていた、信じられないほどピリピリしたり弛緩したりといった安定感のなかった夫の精神状態――いわゆる内づらの悪さとして表れ、外では愛想のよい人で通っていた――には著しい改善が見られ、安定感のある、すこやかなものとなった。
きらめくように陽気でそよ風のように軽やか、人好きのする夫らしい側面に触れられる機会は格段に増え、そんな彼には我が夫ながら惚れ惚れとするような人間的な魅力がある。
勿論、普通に苛立つことは夫にもわたしにもあるので、夫婦喧嘩をしなくなったわけではないけれど。

夫の禁煙は、何回かの失敗を経て継続しているといったところ。食事とおやつの時間を楽しみにしているかどうかで、禁煙が順調かどうかがわかる。お酒はしばらくやめていただけで今も嗜んでいるが、定年退職後の再就職で夜型の生活となったこともあって、3日に1回の飲酒となり、以前より飲む回数も量も減っ た。
成仏した義祖父には高級霊のような手段で地上のわたしに連絡をとることはできないだろうから、想像できるのみだが、おそらくあちらの世界で楽しくやっているに違いない。少なくとも、この物質界で浮かばれない霊として不自由に過ごし、夫を通してお酒を味わうのが唯一の楽しみだった頃に比べたら……。

エレナ・レーリッヒ(ジェフ・クラーク訳)『エレナ・レーリッヒの手紙(抜粋訳)』(アグニ・ヨガ協会編、竜王文庫(コピー本)、2012校正版)の手紙六(上巻の二部)に曾祖父に憑依された女性の話を見つけたので、引用しておきたい。

早速、憑依についてのご質問にお答えしましょう。ご質問は少しもおかしくないと思います。憑依は種類が無数であり、いろいろな度合もあります。そして憑依する存在の性質もさまざまです。
例えば、私達が知っていた敬虔な老婦人は、主教であった曾祖父によって憑依されました。その老婦人には「悪」といえるところが全くありませんでした。彼女は慈善を行い、曾祖父の説教を繰り返して言っただけです。曾祖父は、言いたいことすべてを言い尽くさずに死んだようです。でも、そのような憑依も非常に悲しいのです。憑依者はだんだん相手の意識をとりこにし、その意志を自分の意のままにします。そのような被害者の一生は、本当の成就も蓄積もなく過ぎてしまいます。*5

エッセー 59 「神智学をさりげなく受容した知識人たち――カロッサ、ハッチ判事 ②ハッチ判事」で紹介したエルザ・バーカー(宮内もと子訳)『死者Xから来た手紙―友よ、死を恐れるな』(同朋社、1996)に、ハッチ判事が死後の世界で観察した飲んだくれでいっぱいの地獄をレポートした手紙がある。

この第三十五の手紙に、夫に憑依した義祖父を連想させる描写がある。お酒好きな人々への警告として――野暮な警告かもしれないけれど――引用しておこう。あなたの酒量が上がるとき、あなたはあなたに絡みついた低級霊のために飲んでいるのかもしれない。

ひとくちに地獄といってもいろいろあり、そのほとんどはわれわれ自身が作り出しているということを理解してほしい。地獄は自らが作るものだという決まり文句は、事実に基づいているのだ。(……)飲んだくれでいっぱいの地獄は簡単に見つかった。彼らがそこでなにをしていたと思う? おのれの罪を悔いていた? とんでもない。彼らは、酒の匂いや、酒浸りの人間が発するもっときつい匂いがたちこめる地上の場所の周囲をさまよっていた。匂いで胸がむかつくような場所だ。感覚の鋭い人間が酒場に近づきたがらないのもむりはない。(……)わたしは地上とこちらの世界の両方が見えるように、感応力をとぎすませて中立的な立場に身を置いた。(……)
若者はカウンターに寄りかかり、魂を破滅させる怪しげな液体の入ったグラスをあおっていた。そのそばで、若者より上背のある体をかがめ、ウイスキー臭い息をかごうとするように、冷酷で傲慢そうな青白い顔を彼の顔に寄せていたのは、わたしがこちらに来て以来初めて見るようなおぞましい霊だった。その生き物(こう言えばその力強さがわかってもらえるだろうか)は、長いむきだしの片腕を若者の肩にかけ、もう一方を腰に回して、彼の体を抱きすくめていた。その霊[エンティティ]は、いけにえとなった若者の酒浸りの生命を文字通り吸い取って、彼を吸収し、利用し、死が強めた情熱を彼に代わって味わいつくしていた。*6

 

マダムNの覚書、2016年7月29日 (金) 15:38

 

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*1:アグニ・ヨガ協会編(田中恵美子訳)『アグニ・ヨガ叢書 第8輯 ハート』竜王文庫(コピー本)、2005、p.40

*2:Николай Константинович Рёрих, 1874 - 1947 ※ニコライ・コンスタンチノヴィチ・リョーリフ。ドイツ語でニコライ・レーリヒN. Roerich,英語でニコラスNicholas.

*3:第二部ニコラス・レーリッヒ略伝p.205

*4:武力紛争の際の文化財の保護に関する条約 - Wikipedia

*5:クラーク訳,2012,p.44

*6:バーカー,宮内訳,1996,pp.147-148