マダムNの神秘主義的エッセー

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46 ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ③ブラヴァツキーの名誉回復

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出典:Pixabay

日本語版ウィキペディアブラヴァツキー、神智学、神智学協会に関するページの記述があまりに低俗、お粗末であることから疑問に思い、外国語版ウィキペディアを参照してみようと思ったことから外国語版ウィキペディアをよく利用するようになった(以下の記事を参照されたい)。

25 ブラヴァツキー批判の代表格ゲノンの空っぽな著作『世界の終末―現代世界の危機』
26 ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ①ブラヴァツキーとオウムをくっつける人
40 ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ②三浦関造の雛たちに危いまなざしを向ける人

ブラヴァツキーのことをロシア語版ウィキペディアで調べたことはこれまでになかった。何となく、ロシアのサイトに行くのは怖い気がする。

が、ふと今日、ブラヴァツキーの母国ではどう書かれているのだろうかという興味を抑えられなくなり、出てこないかもしれないと思いつつБлаватская, Елена Петровна(ヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキー)でググってみた。

何という充実! 意外。

ブラヴァツキーの文学的才能に言及されているのが嬉しい。何せ、文豪クラスの名だたる作家が目白押しのロシア文学史なのだ。

ブラヴァツキーは思想書だけではなく、紀行、小説も書いたのである。小説に関しては母親と妹が小説家だったらしいから、血筋なのかもしれない。ブラヴァツキーの小説からわたしはゴーゴリを連想した。

ピアノの腕も相当に本格的であったようだ。家族についても詳細に記述されている(重厚さが漂う)。

それに比べると、Теософское общество(神智学協会)のページはシンプル。革命前にロシアには9つの神智学協会の活動拠点があり、サンクトペテルブルクに4つ、ワルシャワに2つ、スモレンスクキエフ・カルーガに1つずつあったとか。ワルシャワは当時ロシア皇帝に支配されていたのだろう。

革命からペレストロイカまではメンバーは苦難の日々だったようだが(フランス語版によると、ナチス政権下でもメンバーは苦難の日々だったようで)、現在では状況が改善されている様子。

1975年、インドで神智学協会の創立100周年に捧げた記念切手が発行されたそうで、その画像が紹介されている。

ブラヴァツキーと神智学協会はSPR(The Society for Psychical Research 心霊現象研究協会)が公表したホジソン・レポ-トによって社会的信用を失墜させた。

しかしフランス語版ウィキペディアが明確に述べているように、「ホジソンレポートは、1977年にSPRの別のメンバー、ヴァーノン・ハリソンによって有利な方向に修正された」のである。

Le rapport Hodgson sera corrigé dans un sens favorable par un autre membre de la SPR, Vernon Harrison, en 1977.*1

そのハリソンの著作。

H.P. Blavatsky and the Spr: An Examination of the Hodgson Report of 1885 

Vernon Harrison (著)
出版社: Theosophical Univ Pr (1997/06)

日本のアマゾンでは現在取り扱いなしだが、アメリカのアマゾンでは購入できるようだ。

ブラヴァツキーバッシングの内容を調べてきて、どれも似た無内容で、週刊誌的、ゴシップ的なものであることには唖然とするものがある。

彼らが全くの偽善者であり、何らかの利益を見込んでそうしていることは間違いない。

彼らはブラヴァツキーを病原体であるかのように叩く。

もし彼らがブラヴァツキーのことを本当にそのように思っていて、真に人類のためを思って行動を起こそうとするのであれば、まず病原体の正体を見極めようとするはずである。秩序立った研究もせずに、どうしてワクチン開発ができようか。

ところが、わたしがこれまでに調べた誹謗中傷者の誰一人としてまともにブラヴァツキーの著作を読んだ人はいなかった。

読むには相当な教養と前準備が必要だから、彼らには読みたくても読めないのかもしれない。人類を救いたい一心で一生を伝染病撲滅に捧げた研究者のような真似は、彼らはさらさらごめんなのだ。

手っ取り早くブラヴァツキーや(ブラヴァツキーの神智学を本格的にわが国に紹介した)三浦関造を、また追従者や盲信者と見做すところの会員たちをてっとり早く退治して手柄を挙げ、権威を帯びたいのだろう。

違うというのであれば、ブラヴァツキーの著作に釣り合うだけの研究成果を披露してほしいものである。

先行研究としてのブラヴァツキーの宇宙(注)と人類に関する思想体系に釣り合うだけの反論(論文)を書いて貰いたい。

(注) 

宇宙とは宇宙全体を意味しているのではない。

H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『シークレット・ドクトリン 宇宙発生論(上)』(神智学協会ニッポン・ロッジ,1989)の中で、ここで『ジャーンの書』から与えられるスンザ(詩節)はすべて、「一太陽プララヤ後の地球惑星体系と其のまわりの目に見えるものの(宇宙)発生論だけを扱っていることを読者は覚えておかなければならない。普遍的コスモスの進化についての秘密の教えは与えることはできない。それはこの時代の最高の叡智の持ち主にも理解できないからである。この問題を熟考することを許されている最高のイニシエート達でさえも、これを理解できる方はごく僅かしかおられないようである。その上、最高のディヤーニ・チョーハンさえも、いわゆる“中心太陽”から何十億もの太陽をへだてている境界を越えて、神秘を洞察したことはなかったと師匠たちははっきりと言っておられる。従って、伝えられることは“梵の夜”が終わったあとの我々の目に見えるコスモスについてだけである」*2と断り書きがなされている。

 過去、神智学協会で起きた事件――例えばオーラの比類なく美しいクリシュナムルティをアニー・ベザントとリードビーターが養子にし教育して世界教師にしようとした事件――には多くの会員が批判の声をあげたり、脱会したりして分裂現象を惹き起こしたが、それは神智学協会が自浄作用を持ち、組織として健康的であったことの証しである(謎に包まれた事件ではある)。

ブラヴァツキーと神智学協会の社会的信用を失墜させたSPR(英国心霊現象研究協会)のホジソン・レポートに対して、同じSPR内部からホジソン・リポートに対する再検討の動きがあったことも同様にSPRが自浄作用を秘めていたことの証しである。

ところが、今のわが国でブラヴァツキー叩きに勤しんでいるように見える人々は個々の動きを見せているようでもあり、協力し合っているようでもあるが、いずれにしてもシンパシーによって一つのグループを形成しているように見え、彼らが自浄作用を持っているようには見えない。

自浄作用があれば――否、小学生ですら持ち合わせている常識があるだけで事足りる話であるが、その常識があれば、自分達のシンパシーが如何にまやかしであり、自分達の活動が不確かな根拠の上に立っていることに、いくら何でもグループの中の誰かが気づきそうなものだからである。

というのも、感想の対象とする本をろくに読みもせずに書かれた読書感想文が読書感想文に値しないことは、小学生ですら知っていることだからである。

彼らはブラヴァツキーの諸著を読みもせず、貧弱な想像力によって悪いものと決め付けているようだが、もしそれらがひじょうに貴重なもので、人類に限りなく益するものであったとしたら、彼らのブラヴァツキーに対する誹謗中傷こそ人類に対する重大な弊害を惹き起こしてきたはずである。

ブラヴァツキーは『シークレット・ドクトリン』の「はしがき」で述べている。

これらの真理は断じて、啓示としてもたらされたものではないし、筆者は、世界の歴史の中で今はじめて公にされた神秘的伝承の啓示者であると主張もしない。この著作の中にあるものは、アジアの偉大な宗教や太古のヨーロッパの宗教の聖典に表されているが、象形文字や象徴のヴェールにかくされて、これまでに気づかれないままに散在していた何千巻にも及ぶものから得ている。今しようとしていることは、最古の教義を集めて、一つの調和のとれた一貫した全体としてまとめることである。筆者が先輩達よりも有利な唯一の点は、個人的な推論や学説を立てる必要がないということである。というのは、この著作は著者自身がもっと進んだ学徒に教えられたことの一部であって、筆者自身の研究と観察による追加はごく僅かだからである。*3

ブラヴァツキーが生きていたころ、「もっと進んだ学徒」の正体をめぐって大騒ぎがあった。ブラヴァツキーが『シークレット・ドクトリン』の助力者について控えめな書き方をしているにも拘わらず。ホジソン・リポートはそれに関係したリポートなのである。

ブラヴァツキーは「もっと進んだ学徒」のうちの一人でブラヴァツキーの直接の指導者であったモリヤ大師を「マスター」、もう一人のクート・フーミ大師を「マハートマ」と呼んだという。

「もっと進んだ学徒」に教わらずして、『シークレット・ドクトリン』のような書物が書けると思うほうがおかしいとわたしなどは思うが、「もっと進んだ学徒」が存在することに対して、ブラヴァツキーバッシングする人々は異議があるようである。

「もっと進んだ学徒」が存在する根拠は『シークレット・ドクトリン』の中に見つかる。ブラヴァツキーの周囲をうろついたり、ブラヴァツキーに敵意を持つ人々と親密になったりする代わりに『シークレット・ドクトリン』全体に対する反論が無理であれば、せめてその部分に対する論文としての体裁を備えた反論を書くべきだった。

インドではパラマンサ・ヨガナンダ『ヨガ行者の一生』(関書院新社、1979改訂第12版)に見るように、モリヤ大師やクート・フーミ大師のような超人とも聖者とも呼ぶべき存在は語り継がれている。

神智学ではアデプトと呼ばれ、次のような意味がある。

アデプト(Adept:Adeptus,羅)
 オカルティズムでいうアデプトは、インシエーションの段階に達し、秘教科学という科学に精通された方を指す。*4

東洋人であれば、モリヤ大師のような存在やブラヴァツキーの諸著に書かれている事柄には西洋人ほどには違和感がないはずである。

西洋で卑しめられていた東洋の宗教哲学ブラヴァツキーの活動によってどれほど名誉回復に与ったかを、今の日本でブラヴァツキーバッシングを平気で行う人々は考えてもみないようである。

わたしは誰がどのようにして書いたかということには関心が向かず、ただ内容に関心が向いた。自身が読む段階に達していないにも拘わらず、内容の崇高な雰囲気と論の進め方の厳密さに魅了され、平成元年に邦訳版が出版されてからこれまでの28年間――当時30歳だったわたしも58歳になった――、読む努力を重ねてきた。

本のすばらしさは、読まなくとも、感じとれる人間には感じとれるものである。人間と同じように本も――本を通して思想自体が――オーラの光を辺りに投げかけるものだからである。オーラが見えない人々にもその影響は及ぶのである。幸いわたしにはそのオーラが時々見える。そのオーラについて詳細に解説してくれたのもブラヴァツキーだった。

ブラヴァツキーの縁続きで、彼女の諸著作の深い研究家でもあったというボリス・ド・ジルコフはH・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『シークレット・ドクトリン 宇宙発生論(上)』(神智学協会ニッポン・ロッジ、1989年)の「『シークレット・ドクトリン』の沿革」で次のように述べる。

『シークレット・ドクトリン』の基本的骨組みとはH・P・ブラヴァツキーという伝達者を媒介として、アデプト同胞団の二人以上のイニシエートにより明かされた秘教科学、及び哲学の総合的説明である。

 本文は、神秘知識の学徒であるH・P・ブラヴァツキーによる科学的論争や哲学的論文に始まり、秘伝を受けたオカルティスト、HPBの霊的思想や洞察力あふれる鋭い思考そして予言的説明、その上、時には広大な空間にこだまするオルガンの響きのように、より高いオカルティストの心から直接起こされたかのような感動的な句や高遠な意見まで、異なってはいても相互に関連する水準のものを含んでいる。『シークレット・ドクトリン』の真の姿は、このような複雑な体系を把握しない限り理解されることはない。*5

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 『シークレット・ドクトリン』の主要な源泉は、集合的にはその伝達者がHPB自身であったアデプト同胞団であり、個人的にはこの同胞団に属する複数のイニシエート達であったことは明白である。そして、その方々は、伝統的に秘密とされていた知識の一部を今、我々のこの時代に明かす道を選ばれたのである。*6

ブラヴァツキーバッシングはホジソン・リポートを根拠としていることが多いから、それに対する批評的分析を試みたハリソンの著作を読んでみてほしい。そして何より、やはり『シークレット・ドクトリン』『アイシス・アンヴェールド』に当たって砕けるしかない。

作品自体の批評的分析を試みるのが、ブラヴァツキーに異議がある人々にとっての中心課題であるはずだからである。それができない、するつもりさえないというのであれば、彼女について何か書く資格が自分にあるなどと思うほうが異常である。

村上春樹の作品に対する評論を書くために、わたしのような素人の物書きですら、買いたい本を我慢してまで村上春樹のどうしても読む必要があると思われた本は購入して読んだ。

H.P. Blavatsky and the Spr: An Examination of the Hodgson Report of 1885 (H・P・ブラヴァツキーとSPR:1885年のホジソン・リポートの検討)と題されたヴァーノン・ハリソンの著作にはどんなことが書かれているのか、アメリカのアマゾンの商品説明から引用してみよう。一言でいうと、ホジソン・リポートが如何にずさんなものであったかを精密な筆跡鑑定などによって暴いた学術的な論文らしい。

In December 1885 the Society for Psychical Research (SPR) in London, England, published a 200-page report by Richard Hodgson. The report is perhaps best known for its denunciation of H. P. Blavatsky as an impostor, and is often quoted in encyclopedias, reference books, and biographical works. In April 1986 the SPR Journal, 'in the interests of truth and fair play,' published a critical analysis of the Hodgson Report by handwriting expert Vernon Harrison, who found it 'riddled with slanted statements, conjectures advanced as fact or probable fact, uncorroborated testimony of unnamed witnesses, selection of evidence and downright falsity.' Dr. Harrison, a professional examiner of questioned documents, continued his research, including a line-by-line examination of 1,323 color slides of the Mahatma Letters, and in a second monograph (1997) concluded that 'the Hodgson Report is even worse than I had thought.' …

 

1885年12月にロンドンの英国心霊現象研究協会(SPR)はリチャード・ホジソンによる200ページからなるリポートを公表した。リポートはおそらくH・P・ブラヴァツキーを詐欺師とした非難のために最も有名で、しばしば百科事典、参考図書、また伝記に引用される。1986年4月に、SPRジャーナルは「真実に対する興味と公平を期するために」ホジソンリポートが「偏向した証言、起こりそうな事実も事実として進めた推量、匿名の証人たちの確証のない証言、嘘の証言だらけ」であることを発見した筆跡鑑定家ヴァーノン・ハリソンの批評的分析を掲載した。疑問文書の専門の鑑定官ハリソン博士はマハトマからの手紙の 1,323のカラースライドによる1行ずつの鑑定を含めて彼の調査を続け、1997年に発表した第二の学術論文で「ホジソン・リポートはわたしが思っていたよりもっと悪い」と結論を下した。

ホジソン・リポートにまつわる当時の状況について、ハワード・マーフェット(田中恵美子訳)『近代オカルティズムの母 H・P・ブラヴァツキー夫人』(竜王文庫内 神智学協会 ニッポンロッジ,1981)、H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『シークレット・ドクトリン 宇宙発生論(上)』(神智学協会ニッポン・ロッジ,1989)の中の「シークレット・ドクトリンの沿革」で知ることができる。


ロシア語版ウィキペディアは、モリヤ大師の弟子であったニコラス・レーリッヒ(Рерих, Николай Константинович,1874 - 1947)、ヘレナ・レーリッヒ(Рерих, Елена Ивановна,1879 - 1955)のページもそれぞれ充実している。パブリックドメインとなっているニコラス・レーリヒの絵の中から、一枚。

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Никола́й Константи́нович Ре́рих
«И мы трудимся». Серия «Sancta». 1922
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マダムNの覚書、2016年3月12日 (土) 00:03 、2016年3月13日 (日) 19:24

 

 

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*1:Helena Blavatsky. (2016, janvier 6). Wikipédia, l'encyclopédie libre. Page consultée le 20:42, mars 10, 2016 à partir de http://fr.wikipedia.org/w/index.php?title=Helena_Blavatsky&oldid=121985274.

*2:プロエム(緒論)p.201

*3:H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『シークレット・ドクトリン 宇宙発生論(上)』神智学協会ニッポン・ロッジ,1989,はしがきp.138

*4:H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子訳)『神智学の鍵』(神智学協会ニッポン・ロッジ,1995改版,用語解説p.14)

*5:ブラヴァツキー,田中&クラーク訳,1989,『シークレット・ドクトリン』の沿革p.129

*6:ブラヴァツキー,田中&クラーク訳,1989,『シークレット・ドクトリン』の沿革p.131