マダムNの神秘主義的エッセー

神秘主義的なエッセーをセレクトしました。

21 息子と喧嘩して思い出した、妊娠中のある出来事

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息子とあることを話していて、意見にずれがあり、そのことで息子がひどく怒ってしまった。
喧嘩をしたというより、ほぼ一方的な感じだ。

ちょっと人を食った顔つきに見えるけれど、人なつこいフランクな雰囲気を漂わせた普段の息子とはまるで別人に思える。
だが、息子のこんな怒りかたはかつての自分にそっくりなので、昔の自分を相手にしているようで、奇妙な感じがしてしまう。

エドガー・アラン・ポー*1に確か、自分そっくりの他者が存在するという怪奇小説があった気がする――「ウィリアム・ウィルソン」だった――が、本当に似ている。

そういえば、息子を妊娠中に奇妙な体験をしたことがあった。

外出前にマタニティードレス姿の自分を鏡に映していたときのこと、自分にオーバーラップするような形で他者の存在を感じたのだった。

その存在は完全に客観的にわたしを眺め、わたしの服装のセンスを批判するような感じを仄めかせた。虚をつかれたわたしは、その感じを気のせいだと打ち消し、「マタニティードレスなんだから、センスも何も……仕方がないじゃないの」といいわけをしたのだった。その存在とおなかの赤ん坊を切り離すことはできなかった。
あれを胎児の霊、それも前世の霊と考えればいいのか、どうか。

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奇妙な体験はその一度きりで、生まれてきた赤ん坊はごく普通の赤ん坊だったが、高校生になったある日の息子は互いの前世が映し出されているのではないかと想像したくなる神秘的な夢(「8 息子の夢と前世のわたし」を参照されたい)を語って、わたしを驚かせたりもした。
文系のわたしに対して化学や数学に適性のある息子だが、娘よりも息子のほうが自分に似ていると思われ、しかし自分に似た相手というのはむしろ刺激的で、共鳴力も反発力も共に大きい。
年とって、わたしは喧嘩が苦手になった。

関係の修復を考える前に横になりたくなり、喧嘩の種もそれの膨らんだ現象も忘れてしまいたくなる。

だが、かつてのわたしであれば、それは許さないだろう。息子も、執拗だ。
双方の意見が違っているだけで、あるいは情報不足や言葉の不足を原因とした誤解があるだけで、どっちらかが決定的におかしいということはないとわたしは思うのだが、怒ってわたしを批判するときの息子の雰囲気は、文芸作品を批評するときのわたしの執拗さ、冷やかさ、理屈っぽさを連想していただけば事足りると思う。
息子がおなかの中にいたとき、わたしはこれまでの人生で最も精神的に安定していた。

男性ホルモンの影響かもしれないが、そのときのわたしにオーバーラップした他者としての息子が、わたし本来の持ち味を殺さずにいてくれ、別の視点をもたらすことで、わたしの性格や行動の欠点を結果的にフォローしてくれていたというもあるのもしれない。
オーバーラップしたときの息子の感じは少なくとも、壮年期は過ぎた男性というイメージを伴っていた。今の息子よりも成熟した年齢といえるかもしれない。
あのオーバーラップがどういう現象だったのか、妊娠・出産に組み込まれたどんな過程だったのか、神智学の文献で調べてみようと思うが、徹底的に調べたことはまだない。妊娠に関して、驚くようなことがいろいろと書かれている文献があるのだが、何しろ難解なのだ。
生まれ出て完全に他者となった息子だが、自分と怒りかたが似ているのを見るとき、何だかまだ臍の緒がつながっているのを見るような錯覚が起きてしまう。

それを断ち切るために、こんな年齢になってもひどく怒るのではないだろうか、などと本筋とは関係のないことを思ってしまうのだった。
自分と親の関係を想ってみても、親子には何だか……よくいえば神秘的、悪くいえば薄気味の悪いところがあるなあ、とわたしはときに感じてしまうのである。

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マダムNの覚書、2008年12月 7日 (日) 15:19

*1:エドガー・アラン・ポー(Edgar Allan Poe,1809年 - 1849年) アメリカの小説家、詩人、編集者。ゴシック様式を連想させる技巧を凝らした怪奇小説で知られる。推理小説、SFがかった冒険小説でも有名。「アッシャー家の崩壊 The Fall of the House of Usher」(1839)、「モルグ街の殺人 The Murders in the Rue Morgue」(1841)、「メエルシュトレエムに呑まれて A Descent into the Maelstrom」 (1841)、「赤死病の仮面 The Masque of the Red Death」(1842)、「黒猫 The Black Cat」(1843)など。