マダムNの神秘主義的エッセー

神秘主義的なエッセーをセレクトしました。

79 ブラヴァツキー夫人がニューエイジの祖というのは本当だろうか?

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Partha ChakrabortyによるPixabayからの画像

 

 杉本良男氏の2本のオンライン論文を閲覧した。ブラヴァツキー夫人に関する論文だったからだ。

 

ニューエイジ」の直接の祖、母、ゴッドマザー?

ロシアの貴族の出身だったブラヴァツキー夫人は1831年に生まれ、1891年にロンドンで亡くなった。ブラヴァツキー夫人は、近代神智学運動の母といわれ、オカルティズムにおいて、世界で最も影響力のある人物として知られている。

しかし、ブラヴァツキー夫人が神聖な科学という意味で用いたオカルティズムという用語は、現代(の巷)では黒魔術と一緒くたの意味で用いられている。

ブラヴァツキー夫人が毀誉褒貶に晒されやすいのは、彼女の著作を読む能力及び忍耐を欠いた人々が彼女のことを間違って伝えてきたためである。

わたしが杉本氏の 2 本の論文を採り上げる気になったのは、そこに次のように書かれていたからだった。

1875 年にオールコット「大佐」(‘Colonel’ Olcott, 1832–1907)とともに神智(学)協会(Theosophical Society)を立ち上げたマダム・ブラヴァツ キー(Madame Blavatsky, 1831–1891)は,波瀾の生涯を送ったが,あいかわらず現代スピリチュアリズムの祖として高い評価をうけている。近代ニューエイジ運動の直接の祖としての地位は揺るがず,ニューエイジの母,あるいはニューエイジのゴッドマザーなどとも称されている。*1

杉本氏は論文の書き出しで、ニューエイジブラヴァツキー夫人の結びつきを当然の如く肯定し、「直接の祖」、「母」、「ゴッドマザー」と強調している。

わたしは「ニューエイジ」という言葉は知っていたが、この言葉の意味するところが曖昧だったため、その解説を杉本氏の論文に求めた。解説らしいものは見当たらなかった。

何の検証もないままにニューエイジブラヴァツキー夫人の結びつきを杉本氏が宣伝していることに、わたしは学術論文としての資格を疑わざるをえなかった。

杉本氏の 2 本の論文のうちの 1 本は、「特集 : マダム・ブラヴァツキーのチベット : 序論 」『国立民族学博物館研究報告』(40巻2号199 - 214頁 、国立民族学博物館、2015)というタイトルの論文。もう 1 本は、「闇戦争と隠秘主義:マダム・ブラヴァツキーと不可視の聖地チベット」『国立民族学博物館研究報告』(40巻2号267 - 309頁 、国立民族学博物館、2015)というタイトルの論文である。

「特集 : マダム・ブラヴァツキーのチベット : 序論 」に、「日本の神智主義研究をリードしてきた吉永進一*2とあったので、過去記事で吉永氏の論文について感想を書いたことを思い出した。次のエッセーがそうである。

40 ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ②三浦関造の雛たちに危いまなざしを向ける人
54 ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ⑤バッシングから遂にブラヴァツキーがゲームのキャラに
55 ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ⑥20世紀前半のイタリアで
56 ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ➆吉永進一「近代日本における神智学思想の歴史」から連想したオカルト情報誌とW・ジェームズ
57 ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ⑧吉永進一「近代日本における神智学思想の歴史」の中で印象操作される三浦関造
61 大戦前後の日本が透けて見えてくる、岩間浩編著『綜合ヨガ創始者 三浦関造の生涯』
77 前世療法は、ブラヴァツキーが危険性を警告した降霊術にすぎない

「特集 : マダム・ブラヴァツキーのチベット : 序論 」に「神智主義,神智協会がいまだに知的関心の的であることに非常に驚かされた」*3とあるのを読むと、序論から既に何かブラヴァツキー夫人の近代神智学運動や神智学協会に対する否定的ニュアンスがあるような感じを受ける。

新たな情報に接することができるのは嬉しいが、この杉本氏にしても、吉永氏にしても、ブラヴァツキー夫人の主要著作を読んだことがあるのかどうか疑問である。他人の論文の引用からは否定的ニュアンスが感じられなかったりすると、余計に残念な気がする。

ニューエイジ」に関する学術書の乏しさ、曖昧すぎる定義

わたしは、杉本氏がブラヴァツキー夫人との結びつきを指摘していた「ニューエイジ」に関する学術書を読みたいと思い、利用している図書館の検索で探した。1 冊だけ研究書らしきものがヒットした。27年前に出版されたものだ。Amazonで商品説明を見た。

ニューエイジの歴史と現在―地上の楽園を求めて
レイチェル ストーム (著), Rachel Storm (原著), 高橋 巌 (翻訳), 小杉 英了 (翻訳)
出版社: 角川書店 (1993/11)
 

商品の説明
内容(「MARC」データベースより)
ドラッグ、フリーセックス、自己覚醒セミナーは、人類を楽園に導くのか? 世界中のニューエイジ運動の内実を、厖大な資料とフィールドワークによって活写、もう一つの精神史の系譜をたどった最新レポート。

この著作の意味する「ニューエイジ」にブラヴァツキー夫人との結びつきが感じられなかったので、ウィキペディアニューエイジ」を閲覧した。

概要に、ニューエイジが「一般的に、19世紀の心霊主義ニューソート、神智学の伝統から派生したもの、グノーシス主義ロマン主義、神智学が現代的に再編されたものであるとみなされている」*4とある。

そして、「ヨークは、『不便なことに、研究者がニューエイジにアプローチする際、適切で包括的な概説は存在しない』『多くの考えがありながら、運動全体について語ることができる者はいない』と述べている」*5とあるが、その原因の一つは、ニューエイジに対するブラヴァツキー夫人の影響を指摘しておきながら(杉本氏は前掲のように「マダムを祖と崇めるニューエイジ運動」とまで、いい切っている)、ブラヴァツキー夫人の諸著の研究がアカデミックな場でなされてこなかったところから来ているとわたしなどは思う。

日本では第二次大戦後、GHQによる公職追放によって21万人もの各界の保守層が追放された結果、左翼が勢力を伸ばした。学術研究においても彼らが主導的立場をとることになったことから、ブラヴァツキー夫人のような東洋思想に新たな光を当てて科学、宗教、哲学の総合という偉業を成し遂げた人物をも放置状態で、彼女の諸論文の学術研究も評価もされないままできているのだ。

まれに研究がなされる場合でも、どこか見下したような視点での周辺的な、悪くすればゴシップ的なアプローチが多く見られ、こうした研究が学術研究という名に値するかどうか、甚だ疑問である。

彼らの研究自体がニューエイジの影響を感じさせる、恣意的な特徴を持っているようにわたしには思える。

まずはブラヴァツキー夫人の代表的著作の研究がなされるべきで、それがなされずして影響も何も考察できるわけがない。

ブラヴァツキー夫人の代表的著作の研究には古代ギリシア哲学をはじめとする彼女が生きた時代までの哲学の基礎教養が必要で、左翼思想に染まった学者たちにこれらを身につけることが可能なのかどうか……

ブラヴァツキー夫人の思想には存在しない「ニューエイジ」的要素

ウィキペディアニューエイジ」を見ると、ニューエイジという潮流には、第一に、非学術的、ファンタスティック――というより妄想的といべきかもしれない――な要素が見られ、第二に、左翼思想が見られるようである。

というのも、ニューエイジの特徴らしい、世界政府樹立の推進は、アダム・ヴァイスハウプトを祖とする、イルミナティ教団が希求したところのもので、これは、マルクス主義に取り込まれたからである(エッセー 69「革命結社の雛形となったイルミナティの思想と掟、イルミナティ用語としての『市民』」を参照されたい)。

第三に心霊主義。第四に、その心霊主義に絡んだ、金銭的利益を目的とする商業利用が潜んでいるようにも思われる。今、心霊主義といったが、現代の心理学には心霊主義が異様な入り込みかたをしているので、要注意である。

その原因を探れば、アメリカの哲学者、心理学者として著名なウィリアム・ジェームズに行き着く。

自分には同じに見えるからという、ただそれだけの理由で、ウィリアム・ジェームズは、ラリっている薬物中毒者の幻覚も、霊媒の憑依現象も、神秘主義者のヴィジョンも、皆、同一の神秘主義的経験に一緒くたに分類してしまうという大きな過ちを犯したからである(エッセー 56ブラヴァツキーの神智学を誹謗中傷する人々 ➆吉永進一『近代日本における神智学思想の歴史』から連想したオカルト情報誌とW・ジェームズ」を参照されたい)。

ピプノセラピー、いわゆる催眠療法の一種とされる前世療法には、無知からくる催眠術の安易な利用があり、仮にピプノセラピスト本人が如何に善良であろうともそれは黒魔術となってしまうということを、わたしは一神智学徒として憂えている(エッセー 77「前世療法は、ブラヴァツキー夫人が危険性を警告した降霊術にすぎない」を参照されたい)。

 以上のいずれもが、ブラヴァツキー夫人の思想には存在しない要素である。

他にもウィキペディアにはいろいろなことが書かれているが、火遊びにも似た軽率な「霊や異次元の存在との交流(交霊・チャネリング)」は心霊主義者を連想させる行為であり、「病気や貧困・悪は実在せず、心の病気または幻影であるという考え」はブラヴァツキー夫人の時代に存在したクリスチャンサイエンティストとメンタルサイエンティスト達の考えである。

「『精神的な豊かさが物質的な豊かさに直結する』、端的に言うと「『精神が物質化する』という考え方」は、民間信仰によく見られる現世利益的考え方である。

ブラヴァツキー夫人の神智学が何らかの影響を与えているとすれば、彼女の著作の影響を何らかのかたちで受けてはいるけれど、ブラヴァツキー夫人の神智学とは明らかに異なる人々の思想が、区別もつかないままに、恣意的に、大衆的に取り入れられ、民間信仰となった面があるといえるのかもしれない。

左翼が、左翼的解釈で、神智学協会の影響を受けた人々の思想をムード的に取り入れてニューエイジの形成に使った、といえそうな気もする。

というのも、ニューエイジという括りはヒッピー・ムーブメントを連想させるからで、様々な思想、文化芸術のムード的、無節操な取り入れ方が似ている。

アニメーション監督の宮崎駿は筋金入りの左翼として有名であるが、彼のアニメは充分にニューエイジ的なのではないだろうか。

成り立たなかったブラヴァツキースパイ説

ところで、ブラヴァツキー夫人はH・P・ブラヴァツキー(加藤大典訳)『インド幻想紀行 上 ヒンドスタンの石窟とジャングルから』(筑摩書房ちくま学芸文庫」、2003)第一部第一信「イギリス人の猜疑心」という節で、次のように書いている。

このように、自分の弱点を微に入り細を穿ってしゃべりながら、なおインド在住のイギリス人たちは、外国からの無邪気な観光客全員に、スパイの嫌疑をかけるのです。ロシアの芸術家でピアニストのオルガ・デュポン嬢が、二年ほど前訪印し、全国ツアーを行ったとき秘密警察員二十人がその行く先々に影のごとくつきまといました。(略)今ここに一団がやってきました。生粋のヤンキーであるアメリカ人の大佐、ロンドンからきた二人のイギリス人――狂信的な愛国者ですが自由主義者――それからロシア生まれのアメリカ市民、という構成です。この最後のメンバーに警察全体がいかに緊張したか! このグループが、未知の世界に関する哲学的な思索にしか関心がなく、浮世の政治に興味がないばかりか、問題のロシア生まれの旅行者は、政治のイロハもわからないことを分らせようとしても無駄でしょう。*6

自分にかけられたスパイ疑惑について、ブラヴァツキー夫人自身はこのように書いているわけである。

杉本良男「闇戦争と隠秘主義:マダム・ブラヴァツキーと不可視の聖地チベット」を読む限りでは、杉本氏の関心がダークな政治的駆け引きと陰謀論にあると思われるし、当時のチベットにおける複雑な国際政治情勢を考えると、ブラヴァツキースパイ説をテーマとしたくなるのはわかる。

だが、他人の著作からの引用をつないで成り立っているような論文の中で杉本氏は、前掲書『インド紀行』を採り上げておきながら、それをまともに読んだ形跡がないのが研究者の姿勢として疑問を抱かせる。

ブラヴァツキー夫人の行動を研究していながら、肝心のブラヴァツキー夫人の著作がろくに読まれていないことは、この論文からも容易にわかる。

だが、結局のところ杉本氏は論文「闇戦争と隠秘主義」で、ブラヴァツキースパイ説について、「つまり,マダム・スパイ説は,ある意味当たっているが,言葉の正しい意味で国家のスパイではなかったことになる」*7という結論に落ち着いている。

ただ、杉本氏のこの論文を読んだだけではわたしは逆になぜそういえるのか、論拠薄弱で腑に落ちないところがある。

これはわたしの単なるブラヴァツキー観にすぎないが、スパイになるにはブラヴァツキー夫人はあまりに人間的、情緒豊かで不用心すぎるように思われる。『インド幻想紀行』ではブラヴァツキー夫人の考えや内面性が溢れんばかりであり、彼女を知ろうとする上で貴重な著作である。

杉本氏は、ブラヴァツキースパイ説があまり成り立たないとわかると、今度は構造主義的観点から彼女に役割を持たせようとする。

マルクス主義的――唯物主義的――解釈では破綻するブラヴァツキー夫人という人物と行動

杉本氏は論文「闇戦争と隠秘主義」でピーター・ゲイの著作から引用して「マルクス主義が宗教を大衆の阿片と言ったが,当時の大英帝国,ドイツなどでは,宗教が中間層の阿片として復活していたという逆転現象がみられるのである」*8と書いている。

「特集 : マダム・ブラヴァツキーのチベット : 序論 」を読んだ時点では、杉本氏の論文がマルクス主義の見地から書かれたものだとの確信が持てなかったが、ここへ来てマルクス主義全開という感じである。

宗教を阿片と見なす、マルクス主義的な一面的解釈を、代表作『シークレット・ドクトリン』の扉に「科学、哲学、宗教の総合」と掲げたブラヴァツキー夫人を語る場に持ち込まれると困惑する。

H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『シークレット・ドクトリン 宇宙発生論(上)』(神智学協会ニッポン・ロッジ、1989)の序論では、宗教に関して次のように書かれている。

宗教がものを受け入れすぎるとすれば、唯物主義は何でもかんでも否定するが、それらの間の黄金の中点を固守する者、物ごとの永遠の正義を信ずる者は賢明である。(略)“真理に勝る宗教(又は法則)なし”これは神智学協会によって採用されたベナレスのマハーラジャーのモットーである。*9

杉本氏の論文「闇戦争と隠秘主義」における次のウィスワナーダンの著作からの引用もマルクス主義的解釈で書かれているためか、奇妙な表現となっている。

マダムの神智協会は,心霊のような霊媒を介さずに,手紙や霊気コミュニケーションによって直接交信する手段を使い,心霊主義霊性と結びつけただけでなく,現代テクノロジー神秘主義に結びつけた功績があるとする。マダムは歴史と物語の境界をあいまいにする可能性をも開き,テクノロジーが幽体分離,錬金術,時空圧縮などの経験を神秘主義と共有できると主張した。*10

霊気コミュニケーション、時空圧縮とは何だろう? 

ブラヴァツキー夫人は心霊主義霊性と結びつけたのではなく、心霊主義の誤った考えを指摘したのである。また、歴史と物語の境界をあいまいにしたのではなく、神話や伝承に秘められた意味を探り、探り当てた秘教の智慧を開示して、その歴史的意義を明らかにしたのである。

マルクス主義的――唯物主義的――解釈でブラヴァツキーという人物や行動、またその著作を捉えようとすると、どうしたって無理が生じる。

杉本氏の論文「闇戦争と隠秘主義:マダム・ブラヴァツキーと不可視の聖地チベット」は、「記号論的存在からイデオロギー的存在へとまつりあげられた過程を詳細に検討するにつけても,マダム・ブラヴァツキーはまことに稀有な存在といえるであろう」*11と締めくくられている。

わたしは「特集 : マダム・ブラヴァツキーのチベット : 序論 」と「闇戦争と隠秘主義:マダム・ブラヴァツキーと不可視の聖地チベット」を読んで、杉本氏のような一部のマルクス主義者――唯物主義者――がどのようにしてブラヴァツキー夫人の虚像をつくり上げ、貶しながらニューエイジの祖にまつり上げたかの過程を見る思いがした。

杉本氏の神智学協会像とは対照的な『岩波哲学・思想事典』の記述

杉本氏は南アジアの宗教を中心に研究活動を行っているそうだが、『岩波哲学・思想事典』の項目中「神智協会」の解説を、歴史学者で、南アジア近現代史が専門の藤井毅氏が担当している。

杉本氏の神智学協会像とは対照的な記述であるので、紹介しておきたい。

事典の「神智協会」の記述には、創設から各地に支部、連携団体が結成されたこと、「A・ベサント夫人の参加によりインドの合法的自治運動や民族的教育を積極的に支持するようになったが,M.K.ガンディーの登場とともに退潮した」こと、一時期J.クリシュナムルティーも籍を置いたことが述べられている。

以上は、やや疑問のある記述だが、残る三分の一ほどの記述を、次に引用しておく。

 宇宙と存在の全ては相互に関わり合いを持つ一体で,偏在する同一の源に発し,目的と意味を持ち秩序ある形で顕現するとした.
 宗教・哲学・科学の統合を目指し,未解明の自然法則と人間の潜在能力の研究が重視された.この点で先行する神智思想を継承するが,個々の宗教伝統が持つ団体の価値観を尊重し,人種・信条・性別・カーストなどに基づく差別を乗り越えて人類同胞の実現を図り,南アジアの精神復興に寄与したことで特異な役割を果たすことになった.インド古典学の研究に多大な貢献をなしたばかりか,オルコットは仏教を受け入れ,セイロンにおける仏教復興を刺激した.人智学を唱えたR.シュタイナーにも影響を与えた.〔藤井毅〕*12

政治活動に関するブラヴァツキー夫人の見解

ちなみに、ブラヴァツキー夫人は政治活動について、H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子訳)『神智学の鍵』(神智学協会ニッポン・ロッジ、1995)で次のように述べている。

協会としては、政治に関係することを注意深く避けています。(略)神智学協会は最高の意味での国際的な組織です。協会の会員は人類の改善という唯一の目的で協力して働く、あらゆる人種、宗教、思想の男女から成っています。しかし、協会としては国民的、党派政治には絶対に参加しません。(略)国際的な組織ですから。その上、政治活動は必然的に、時や個人の特異性でいろいろと変わらなければなりません。神智学協会の会員は神智学徒として当然、神智学の原則を承認しています。でなければ、彼等は協会に入るはずはありません。しかし、会員達はすべての問題で意見が一致するということにはなりません。協会としては、会員全体に共通のこと、即ち神智学自体と関係するものだけを一緒に実行することができます。個人としては、神智学の原理に違反せず、協会を傷つけない限り、政治的思想や活動は完全に各自の自由に任せられています。*13

わたしが『岩波哲学・思想事典』の項目中、藤井毅氏による「神智協会」の解説の前半部分にやや疑問があると前述したのは、「A・ベサント夫人の参加によりインドの合法的自治運動や民族的教育を積極的に支持するようになったが,M.K.ガンディーの登場とともに退潮した」という箇所で、アニー・ベサントの個人的な政治活動が神智学協会としての活動だったとの誤解を与える内容であるためである。

 

マダムNの覚書 2018年3月 9日 (金) 21:47、2018年3月19日 (月) 00:27

*1:国立民族学博物館研究報告』(40巻2号199 - 214頁 、国立民族学博物館、2015、p.4

*2:杉本,2015,p.200

*3:杉本,2015,p.199

*4:ニューエイジ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2018年3月3日 (土) 15:16 UTC、URL: https://ja.wikipedia.org

*5:ニューエイジ」『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』。2018年3月3日 (土) 15:16 UTC、URL: https://ja.wikipedia.org

*6:ブラヴァツキー,加藤訳,2003,pp.032-033

*7:杉本,2015,p.287

*8:杉本,2015,p.299

*9:ブラヴァツキー,田中&クラーク,1989,「序論」p.177

*10:杉本,2015,p.299

*11:杉本,2015,p.303

*12:廣松渉 ・編集 『岩波哲学・思想事典』岩波書店 ,1998,「神智協会」p.831

*13:ブラヴァツキー,田中訳,1995,pp.227-228