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マダムNの神秘主義的エッセー

神秘主義的なエッセーをセレクトしました。

30 テレパシーといわれるような体験から思うこと

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Pixabay - Free Images

わたしはエッセー28 で自身の未熟な、いわゆるテレパシー体験について、日記体小説『詩人の死』で書いた断片を引用した。

 神秘主義ではよく知られていることだが、霊的に敏感になると、他の生きものの内面的な声(思い)をキャッチしてしまうことがある。人間や動物に限定されたものではない。時には、妖精、妖怪、眷族などという名で呼ばれてきたような、肉眼では見えない生きものの思いも。精神状態が澄明であれば、その発信元の正体が正しくわかるし、自我をコントロールする能力が備わっていれば、不必要なものは感じずに済む。

 普段は、自然にコントロールできているわたしでも、文学賞の応募作品のことで頭がいっぱいになっていたときに、恐ろしいというか、愚かしい体験をしたことがあった。賞に対する期待で狂わんばかりになったわたしは雑念でいっぱいになり、自分で自分の雑念をキャッチするようになってしまったのだった。
 普段であれば、自分の内面の声(思い)と、外部からやってくる声(思い)を混同することはない。例えば、わたしの作品を読んで何か感じてくれている人がいる場合、その思いが強ければ(あるいはわたしと波長が合いやすければ)、どれほど距離を隔てていようが、その声は映像に似た雰囲気を伴って瞬時にわたしの元に届く。わたしはハッとするが、参考程度に留めておく。ところが、雑念でいっぱいになると、わたしは雑念でできた繭に籠もったような状態になり、その繭が外部の声をキャッチするのを妨げる。それどころか、自身の内面の声を、外部からやってきた声と勘違いするようになるのだ。
 賞というものは、世に出る可能性への期待を高めてくれる魅力的な存在である。それだけに、心構えが甘ければ、それは擬似ギャンブルとなり、人を気違いに似た存在にしてしまう危険性を秘めていると思う。
 酔っぱらうことや恋愛も、同様の高度な雑念状態を作り出すという点で、いささか危険なシロモノだと思われる。恋愛は高尚な性質を伴うこともあるから、だめとはいえないものだろうけれど。アルコールは、大方の神秘主義文献では禁じられている。
 わたしは専門家ではないから、統合失調症について、詳しいことはわからない。が、神秘主義的観点から推測できることもある。
 賞への期待で狂わんばかりになったときのわたしと、妄想でいっぱいになり、現実と妄想の区別がつかなくなったときの詔子さんは、構造的に似ている。そんなときの彼女は妄想という繭に籠もっている状態にあり、外部からの働きかけが届かなくなっている。彼女は自らの妄想を通して全てを見る。そうなると、妄想は雪だるま式に膨れ上がって、混乱が混乱を呼び、悪循環を作り上げてしまうのだ。*1

一般に想像されているテレパシー現象とは違うと思うところがあるので、それを書いておきたい。

これはエッセー29 のオーラについて書いたことから想像して貰えるといいのだが、わたしのそうした能力は次第に拓けていったので、自然にコントロールされているということだ。これは、いずれは誰にでも拓ける性質のものであるようだ(そうでなければ、わたしは自分の体験を書こうとは思わないだろう)。

大師とか聖者とかいわれるような方々なら話は別だろうが、平凡で卑小なわたしが自分から――つまりは世俗的な動機で――神秘主義的な能力を駆使して何かを知りたいと思えば、そのとたんに受信能力は低下し、自分で自分の雑念を受信するのがオチである。賞狙いのときにそれを実感して恐ろしかった。

もし自然にコントロールされていなければ、刺激過多、情報過多でおかしくなってしまうだろう。

だから、世俗的な要求に応じられるような能力はまず霊媒能力だろうとわたしは思う。

スピリチュアル・ブームで、催眠術による前世探求や超能力開発が流行っているようだが、霊媒になったり、狂ったりしたくなければ、やめたほうがいいと警告したい。

催眠術は神秘主義では黒魔術である。お金を使って拓けるような神秘主義的能力などない。

だが、スピリチュアル・ブームの責任をブラヴァツキーになすりつけるのは誤りである。ブラヴァツキーが生きていたころも、彼女が有名になる以前から既にスピリチュアル・ブームはあった。

彼女の著作を読むと、古代からそうした危険なブームがあったことがわかる。

ブラヴァツキーは心霊現象を詳細に調べ、分析して、心霊主義の誤りと危険性を警告したというのに、彼女の代表作さえ読んでいない――か読む能力を欠いた――ウィリアム・ジェームズ、コリン・ウィルソン、ルネ・ゲノンといった人々やその信奉者たちに好き勝手に誹謗中傷され、彼女の貴重な警告は搔き消されてきた。

彼らの論拠となってきたのが、あとで述べるSPRの「ホジソン報告」である。

テレパシーについて、ウィキペディアでは次のように解説されている。

テレパシー (Telepathy) は、ある人の心の内容が、言語・表情・身振りなどによらずに、直接に他の人の心に伝達されることで、 超感覚的知覚 (ESP) の一種で、超能力の一種。 mental telepathy の短縮形。漢字表記では「精神感応」とも。

「テレパシー」という言葉は、1882年にケンブリッジ大学のフレデリック・ウィリアム・ヘンリー・マイヤース教授によって提案された。この言葉ができる以前は、思考転写 (thought-transference) と呼ばれていた 。*2

 1882年に心霊現象研究会(Society for Psychical Research、略称 SPR)が設立されたが、フレデリック・ウィリアム・ヘンリー・マイヤースは設立者の一人であった。

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F. W. H. Myers
From Wikimedia Commons, the free media repository

SPRは「ホジソン報告」でブラヴァツキーに汚名を着せ、神智学協会の社会的信用を失墜させた。

H・P・ブラヴァツキー(加藤大典訳)『インド幻想紀行 下』の解説で、高橋巌は次のように書いている。

一九八六年になって、SPR(ロンドンの心霊研究協会)は、HPBの欺瞞性を暴露したといわれた「ホジソン報告」(一八八四年)について亡き夫人に謝罪し、百年来の論争に終止符を打った、とのことである。*3

だが、SPRの「ホジソン報告」の影響は現在にまで及んでいる。

SPRは現在も活動しており、ホームページを閲覧してみたが、ざっと見たところでは、そこに過去の出来事としての「ホジソン報告」やブラヴァツキーに対する謝罪の言葉などはない。

Society for Psychical Research
http://www.spr.ac.uk/

彼らの目的は、次のようなものだという。

Our aim is to learn more about events and abilities commonly described as "psychic" or "paranormal" by supporting research, sharing information and encouraging debate.*4

スピリチュアル・ブームの源泉は、心霊主義に警鐘を鳴らしたブラヴァツキーであるはずがない。

源泉は、ブラヴァツキーの神智学の影響を――どの程度か――受けながらも、考え方が違うために神智学協会と袂を分かった人々の中にいると思われる。今も活動を続けているこのSPRも、そうといえるのではないだろうか。

というのも、ブラヴァツキーの伝記『近代オカルティズムの母 H・P・ブラヴァツキー夫人』を再読して気づいたのだが、マイヤースは神智学協会の会員だったようである。

 マイヤーズは詩人であり、傑出した古典文学者で、長い間、F・T・Sといわれている神智学協会の会員でした。「セオソフィスト」誌のコラムはこの人の為の長い答で賑わっており、この答を書くのはHPBの悩みの種でした。

 マイヤーズは神智学協会に関係のある超常現象に特別な興味をもっていました。彼もその友人達も皆、博学な人達でしたが、最近、自分達の特別な協会をつくり、このような現象の研究をはじめました。この新しい組織はサイキック研究会(S・P・R)と呼ばれ、その会員達は、科学者が軽べつして避けている――サー クルックスのような例外も、二、三人いましたが――捕らえどころのないサイキック領域に、近代科学の具体的技術を適用したいと思いました。*5

H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『実践的オカルティズム』の用語解説には、次のようにあった。

心霊研究会(Society for Psychical Research
 心霊現象を調べるために1882年2月にロンドンで創立された学会。その創立者の中に神智学協会のメンバーが何人もいたので、初めのころは協会と協力的な態度をとっていたが、1884年にブラヴァツキー夫人の現象を調べるためにリチャード・ホジソンをインドに派遣し、翌年の『報告書』で夫人を『詐欺師』や『ロシアのスパイ』と非難した。『報告書』の偏った扱い方のために、神智学協会は却って同情を得て、会員は三倍ほど増えた。*6

Society for Psychical Researchのホームページには「我々の目的は学術調査を支援し、情報を共有し合い、討論を奨励することによって、一般的に『サイキック』あるいは『超常現象』といわれるような出来事からもっと学ぶことにあります」と謳われているが、彼らのいう学術調査そのものが、危険性を伴うことに未だに気づいていないのだろうか。

psychic(サイキック)について、H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『実践的オカルティズム』の用語解説には、「サイキ(psyche、ギリシア語の「プシュケ」)即ち魂と関係のあるという意。魂とは、高級マナスを意味することもあるが、「サイキック」の場合は、低級マナス以下の本質を指すことが多い」*7とあるが、ここでは心霊作用や超能力に関連して使われているようだ。

いわゆる超能力者といわれる人々には、霊媒と、自然に神秘主義的な能力を目覚めさせた者とが含まれるはずである。

霊媒を実験するのは、被験者である霊媒、実験者のいずれにとっても危険性を伴うものであるようだし、自然に神秘主義的な能力を目覚めさせた者の能力は、わたしは自らの体験から、世俗的な――学術的であろうと同じである――実験では測ることのできない性質のものだと思うからである。

子供の火遊びになってしまうことが、1世紀経ってもわからないようだ。なぜ危険かはブラヴァツキーの著作をきちんと読めば、わかるはずのことなのだ。

ブラヴァツキーは様々な実験を行い、それらの実験は彼女の論文に生かされたが、彼女は並みの人ではなく、また大師方の見守りがあってできたことだった。

それが本当かどうかは、ブラヴァツキーの著作が知っている。ブラヴァツキーを今なお誹謗中傷する人々は、なぜ、その最も確かな証人である論文をこそ「学術調査」しないのか。

誹謗中傷する暇があるなら、心霊主義に対する彼女の警告を正しく伝えてほしいものである。

ところで、テレパシー現象について、インドの聖者パラマンサ・ヨガナンダが自叙伝で的確に解説している。その部分を引用しておきたい。

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Standard Pose; this image of Paramahansa Yogananda appears in many of his publications. It was very probably taken at approximately the time Yogananda arrived in the USA, in 1920.
From Wikimedia Commons, the free media repository

 直観と言うものは霊に導かれるもので、心が平静な時には自然に現われるものである。人は他しも、何故か理由は分からぬが虫の知らせか正しかったという経験や、自分の心を人にうまく感応させたという経験を持っているであろう。

 人間の心というものは不安定な状態から解放されている時には、その本能のアンテナを通して複雑なラジオ機構のもつあらゆる働きをするものである。つまり想念を発信したり受信したり、また好まぬ想念はダイヤルを廻してこれを遮断してしまうことも出来るのである。ラジオの性能が各々その使用する電流に依って異なるように、人間ラジオのはたらきもその個人の所有する意志によって異なるのである。
 宇宙にはあらゆる想念が不断に振動している。大師は強烈な精神集中によって死者、生者を問わずいかなる人間の思想をも探知することができる。想念の根源は個人的なものではなく、普遍的なものである。真理は創造されるものではなくて、ただ知覚されるものである。ヨガ科学の目的は宇宙に充満する神の幻を歪みなく心に映すことができるように、精神を鎮静させることである。*8

※ SPRについては、拙ブログ「マダムNの覚書」のカテゴリー「Notes: 夏目漱石」も参照されたい。

*1:直塚万季『詩人の死Kindle版、2013年、ASIN: B00C9F6KZI

*2:ウィキペディアの執筆者. “テレパシー”. ウィキペディア日本語版. 2015-01-04. https://ja.wikipedia.org/w/index.php?title=%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%91%E3%82%B7%E3%83%BC&oldid=53999724, (参照 2015-10-05).

*3:H・P・ブラヴァツキー(加藤大典訳)『インド幻想紀行 下』(筑摩文庫(ちくま学芸文庫)、2003年、「解説 魂の遍歴」p.501

*4:参照 2015-10-05

*5:ハワード・マーフェット(田中恵美子訳)『近代オカルティズムの母 H・P・ブラヴァツキー夫人』神智学協会 ニッポンロッジ、昭和56年、p.265

*6:H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『実践的オカルティズム』神智学協会ニッポン・ロッジ 竜王文庫内、平成7年、用語解説pp.14-15

*7:H・P・ブラヴァツキー(田中恵美子&ジェフ・クラーク訳)『実践的オカルティズム』神智学協会ニッポン・ロッジ 竜王文庫内、平成7年、用語解説p.11

*8:パラマンサ・ヨガナンダ『ヨガ行者の一生』(関書院新社、昭和54年改訂第12版(初版35年)、p.134